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溶解度パラメータと物理現象

Hansen溶解度パラメータの再確認

Hansen溶解度パラメータは、物質間のエネルギー相互作用を3つの成分に分けて表現します。

1. 分散力(δd):ファンデルワールス力に基づく分子同士が引力
2. 極性力(δp):分子間の双極子相互作用に基づく引力
3. 水素結合力(δh):水素原子と電子供与性原子(酸素や窒素など)の間に働く引力

このHansen溶解度パラメータから導かれるHansen溶解度パラメータの距離Raが小さい場合、物質同士は溶けやすいと推測されます。一方、この理論は溶解現象だけでなく、材料科学や表面科学のさまざまな物理現象に応用されています。

材料表面の濡れ性

材料の濡れ性は、液体が固体表面にどれだけ広がるか(接触角)によって評価されます。接触角が小さいほど固体表面に液体が「濡れ」ていることを示します。Hansen溶解度パラメータは、表面自由エネルギーと呼ばれる物理量と相関があるため、液体と固体表面の親和性を評価する指標として役立ちます。

たとえば、Hansen溶解度パラメータを用いて、算出されるRaが小さい(溶解度パラメータが近い)場合は、濡れ性が高い傾向があります。塗料・インキや接着剤の開発では、この濡れ性の評価が重要な開発項目となっています。

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濡れ性

微粒子分散性

微粒子の液体中での分散技術は、電子デバイスの製造プロセスや医薬品開発などで重要な技術と知られています。微粒子同士が凝集しており、分散性が不十分な場合、プロセス安定性や製品品質が低下する原因になります。

Hansen溶解度パラメータは、微粒子と分散溶媒の親和性を評価し、微粒子の分散性を改善する指針に活用されています。他にも、微粒子表面処理や添加剤のHansen溶解度パラメータを調整することで分散安定性が向上することが知られています。

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微粒子の分散と凝集

材料の透明性

Hansen溶解度パラメータの「分散項(δd)」は、材料の屈折率や光の透過性と相関があることが知られています。

たとえば、ポリマーフィルム中に微粒子を添加する場合、ポリマーと微粒子のHansen溶解度パラメータの分散項δdの差が小さいほど光の散乱が抑えられ、透明性が向上します。ディスプレイ材料や光学フィルムの開発では、この透明性評価にHansen溶解度パラメータが利用されています。

まとめ

Hansen溶解度パラメータは、単なる「溶解性」を推測するツールに留まらず、濡れ性、分散性などの複数の材料が接触する際の「親和性」に関する物理現象や、材料の透明性の物性を推測する際に、その有用性が認められています。

材料メーカーや電子デバイスメーカーの実験化学者にとって、Hansen溶解度パラメータは材料設計の幅を広げる強力なツールであり、今後もその応用範囲が拡大することが期待されます。