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Hansen溶解度パラメータ(HSP)

Hildebrand溶解度パラメータの限界

Hildebrand溶解度パラメータδは、「物質の凝集エネルギー密度」をもとにした一次元の物理量で、無極性溶媒や低極性分子において、溶解性を推測に利用することができます。一方、極性分子や水素結合を持つ物質の溶解性を推測するためには、双極子相互作用や水素結合を考慮する必要があるため、推測精度には限界がありました。

たとえば、極性溶媒のエタノール(δ = 12.7)と、無極性溶媒のヘキサン(δ = 7.3)は、Hildebrand溶解度パラメータが近いにも関わらず混和しない一方、エタノールと溶解度パラメータの値が離れている水(δ = 23.4)には混和します。このような現象をHildebrand溶解度パラメータでは説明できませんでした。

CrowleyとBlanksらによる改良の試み

1950年代、CrowleyやBlanksはHildebrand溶解度パラメータの考え方を発展させ、極性分子の溶解性を推測精度に対する課題を解決しようとしました。彼らは、溶解性に関与する分子間相互作用を、複数の要素に分けて考えるべきだと提案しました。この時点では具体的な分割方法については確立されておらず、実験的な検証も限られていました。この理論的な課題を克服したのが、Hansen教授が提唱したHansen溶解度パラメータです。

Hansen溶解度パラメータの提案

1967年、Hansen教授は溶解性を3つの異なる力の成分に分解する「Hansen溶解度パラメータ(HSP)」を提案しました。Hansen教授の理論によれば、物質の溶解性は以下の3つの成分から成り立っています。

1. 分散力(δd):ファンデルワールス力に基づく分子同士が引力
2. 極性力(δp):分子間の双極子相互作用に基づく引力
3. 水素結合力(δh):水素原子と電子供与性原子(酸素や窒素など)の間に働く引力

数式

この3つの成分を組み合わせることで、物質の溶解性をより正確に推定できるようになりました。また、Hansen溶解度パラメータは、3次元マップ上に各々の物質のHansen溶解度パラメータをプロットすることで、Hildebrand溶解度パラメータと同様に「似たもの似たものをよく溶かす」という直感的に親和性を捉えることができる点で優れた理論と言えます。

3D Map of Hasen Solubility parameters
Hansen溶解度パラメータ(HSP)の3次元マップ

Hansen溶解度パラメータの式と意味

Hansen溶解度パラメータにおける異なる2つの物質の親和性は、以下の式(2)のRaで定義されています。このHansen溶解度パラメータにおける距離ともいえる、Raを用いることで、物質間の溶解性を定量的に評価することができます。すなわち、Raの値が小さいほど、物質同士が溶けやすい、混ざりやすいことを示しています。

数式

ここで、Hildebrand溶解度パラメータでは説明が困難だった、エタノールとヘキサン、エタノールと水の親和性を計算すると右図のように、Hildebrand溶解度パラメータと対照的に、Hansen溶解度パラメータでは親和性が逆転していることがわかります。

distace hansen solubility parameters
Hansen溶解度パラメータにおける親和性

まとめ

Hansen溶解度パラメータは、一次元の値であるHildebrand溶解度パラメータの限界を克服し、極性分子や水素結合を持つ物質にも高い精度で親和性の推測できる理論として知られています。

異なる2つの物質のHansen溶解度パラメータからをHansen溶解度パラメータの距離であるRaを比較することで、定量的に親和性を評価することができるため、現在では化学業界などで幅広く受け入れられています。