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原子団寄与法によるHSP推定

原子団寄与法の基本概念

Hansen溶解度パラメータ(HSP)は、Hansen Sphere法を用いて得られる値ですが、複数の溶媒を検討するなど煩雑な実験が必要であるため、有機分子の分子構造からHSPを推定する手法が古くから開発されています。

代表的な手法の一つとして「原子団寄与法(Group Contribution Method)」が知られています。原子団寄与法は、分子を構成する各「原子団(functional group)」が溶解性に与える寄与を数値化、それらの寄与値を合計することでHSPを推定する手法です。

たとえば、メチル基(-CH3)、ヒドロキシ基(-OH)、カルボニル基(=O)など、特定の官能基ごとに事前に割り当てられたパラメータを用いてHansen溶解度パラメータを算出します。この方法は、これまでにvan Krevelen&Hoftyzer法、Stefanis&Panayioyou法、Y-MB法、JKU-HSPなど、様々な計算法が提案され、その簡便さから、実験的手法の代替または補完手段として利用されています。

原子団寄与法を用いたHSPの計算手順

原子団寄与法では、まず最初に対象となる物質の分子構造を割り当てられた官能基に分割することから始まります。

例えば、n-プロパノール(CH3CH2CH2OH)の場合では、メチル基(-CH3)1個、メチレン基(-CH2) 2個、ヒドロキシ基(-OH) 1個というように分子を分割します。その後、各原子団に割り当てられた各項パラメータと原子団の数から分散力成分(δd)、極性力成分(δp)、水素結合力成分(δh)を計算します。

•δd = δd(CH3) + δd(CH2) × 2 + δd(OH)
•δp = δp(CH3) + δp(CH2) × 2 + δp(OH)
•δh = δh(CH3) + δh(CH2) × 2 + δh(OH)

このように全ての原子団のパラメータを合計することで、n-プロパノールの分子全体のHSP (δd, δp, δh) を求めることができます。

group_contribution
原子団寄与法による分割

原子団寄与法の利点と課題

原子団寄与法は、実験不要で分子構造からHSPを簡便に推定できる有用な手法である一方、根本的に下記のような課題を抱えています。

① 原子団寄与法で定義している原子団の種類は限定的であり、多様な有機分子に全て対応するには限界がある。

② 各原子団の「数」により、HSPを推定するため、分子構造といった幾何学的情報が抜け落ち、構造異性体間の違いや立体構造を考慮することができない。

まとめ

原子団寄与法は、分子構造の情報をもとにHansen溶解度パラメータ(HSP)を迅速に推定することができる有用な手法です。この方法を活用することで、実験を最小化しながら材料開発やデバイス開発の効率化が期待できます。

他方、その簡便さから複雑な分子に関しては、適切な推定が困難という問題も抱えています。そのため、より精度の高いHSPを求める場合には、実験データとの併用による検討が必要になります。