• HOME
  • 溶解度パラメータ(sp)

溶解度パラメータ(sp)

溶解度パラメータの誕生

溶解度パラメータ(SP:Solubility Parameter, δ)とは、異なる物質がどの程度混ざり合うか、「溶解性」を予測するために使われる物理量です。

この物理量は、1920年代にアメリカの化学者、Hildebrand教授によって初めて提唱されました。Hildebrand教授は、物質同士が似た特性を持っている場合、たとえば、油同士や水同士であれば混ざり合うことができるという「似たものは似たものを溶かす」、逆に、油と水は混ざらないという考え方に立脚し、材料の特性を定量的に数値化した溶解度パラメータを定義しました。

mixture of oil and water
油と水の分離

溶解度パラメータの定義と基本概念

溶解度パラメータは、次の式(1)で定義されています。

数式

すなわち、任意の物質における単位体積あたりの凝集エネルギー(蒸発エネルギー)の平方根を表す物理量と定義付けられています。凝集エネルギーとは、分子を引き離すのに必要なエネルギーになるので、分子同士がどれだけ強く引き合っているかを示す値とも捉えることができます。この引力が強い物質ほど、この値は大きくなります。

この物理量は、提唱者の名前からHildebrand溶解度パラメータと呼ばれ、各溶媒の溶解度パラメータの値が一般的に広く知られています。なお、Hildebrand溶解度パラメータの単位は、(J/cm3)1/2または(MPa)1/2で表されます。

cohesion energy
凝集エネルギー(蒸発エネルギー)

Hildebrand溶解度パラメータの使い方

Hildebrand溶解度パラメータは、値が近いほど親和性が高くなるため、溶解性や混和性を推測することができます。その取り扱いの簡便さから、具体的には下記のような場面にて、実用的に利用されています。

1. 溶媒選定:特定の物質を溶解させる最適な溶媒の探索に役立ち、塗料・インキを製造・塗布する際の溶媒選定に利用されます。

2. 溶解性評価:高分子材料が特定の溶媒で溶解・膨潤したり、複合材料の開発において、異種材料間の相互作用を評価する際に使用されます。

たとえば、トルエンは、溶解度パラメータの値が近いヘキサンとは混和し、均一な混合溶媒となります。他方、溶解度パラメータの値が離れている水とは混和せず、分離した状態となることが推測できます。

Hildebrand solubility paranmeter
Hildebrand溶解度パラメータ
evaluation of affinity
溶解度パラメータによる混和性評価

Hildebrand溶解度パラメータの適用限界

Hildebrand溶解度パラメータは、比較的簡便に無極性分子や低極性分子の溶解性の予測ができると言われています。

一方、極性分子や水素結合を形成する分子の場合、分子間で分散力以外の双極子-双極子相互作用や水素結合などの分子間力が働くため、Hildebrand溶解度パラメータのような蒸発エネルギーとモル体積だけで溶解性を予測するには不十分といわれています。

まとめ

Hildebrand溶解度パラメータは、物質の溶解性を予測するための便利な物理量です。特に、無極性物質に対する溶解性予測には有用な指標となります。

ただし、極性物質や水素結合を持つ物質の溶解性の予測はHildebrand溶解度パラメータでは困難であるため、Hildebrand溶解度パラメータの適用範囲を理解しながら利用することが必要です。