特殊溶媒 - 水(H₂O)の取扱

水の特殊性

水(H2O)は、材料研究、配合設計、デバイス製造プロセスの検討において理想的な溶媒かつ必要不可欠な溶媒ですが、溶解度パラメータにおいては他の溶媒とは異なる挙動を示す溶媒であると知られています。これは、水が単一の分子状態として存在するのではなく、水素結合ネットワークやクラスター構造を形成し、状況によってその構造や相互作用が大きく変化する、きわめて特殊な溶媒であるためです。

そのため、水の溶解度パラメータは単一の値ではなく、水の状態に応じて3種類の代表的なモデルが提案されています。それぞれの概要は以下の通りです。

「純水モデル」: 水の蒸発熱から計算された凝集エネルギーを基に評価するもので、純粋な液体としての水の物性値を表しています。
(δd, δp, δh)=(15.5, 16.0, 42.3)

「部分混和モデルの水」: 水に1%以上混合する溶媒を良溶媒と定義して求めた溶解度パラメータで、主に希薄〜中濃度の水溶液の状態を表しています。
(δd, δp, δh)=(15.1, 20.4, 16.5)

「高混和モデルの水」: エタノールなど水と完全に混合する溶媒を混ざり合う溶媒を良溶媒と定義して求めた溶解度パラメータで、水が共溶媒として振る舞う高濃度混合の状態を表しています。
(δd, δp, δh)=(18.1, 17.1, 16.9 または 18.1, 12.9, 15.5)

すなわち、水と組み合わされる溶媒・材料に応じて適切な水の溶解度パラメータを用いることが本質的には重要になります。

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水の溶解度パラメータモデル
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水の溶解度パラメータの位置関係

純水モデルの溶解度パラメータとその課題

従来まで、文献やデータブックなどで一般的に採用されてきた水の溶解度パラメータは、蒸発熱から算出された純水モデルであり、値としては(15.5, 16.0, 42.3)が用いられてきました。この値は、溶解度パラメータの定義である純粋な水の単位体積当たりの凝集エネルギーという意味では正しいものの、材料設計や溶解・分散性の評価に利用すると、水素結合ネットワークやクラスター構造といった、水の実際の挙動を反映できず次のような課題が生じます。

・有機溶媒群から極端に離れた位置に溶解度パラメータが存在し、三次元空間上で孤立するため、評価対象として機能しにくい。

・実際には少量溶けるはずの溶媒や物質でも、純粋モデルの溶解度パラメータでは「溶けない」と判定されるケースが多い。

・水を無理にHansen Sphere球の内部に含めようとすると、溶解球の形状が不自然に歪み、他の溶媒に対する予測精度が低下する。

これらを改善するには、水の凝集状態が固定的な単一分子ではなく、溶質や共存溶媒の影響で構造が大きく変化するという性質を踏まえる必要があります。したがって、純水モデルは物性値としての水を論じるには適切ですが、溶解性や親和性を評価する指標としては不十分であると言えます。

SoluVisionで採用する水の溶解度パラメータ ― 部分混和モデルの水

SoluVisionでは、水の溶解度パラメータとして、「部分混和モデルの水」を標準値として採用しています。「部分混和モデルの水」の溶解度パラメータでは純水モデルと比較して、δH(水素結合成分)が現実的な値となっており、過剰な水素結合の影響を抑制されています。

これに加えて、SoluVisionでは以下の理由から本モデルを採用しています。

1. 多くの材料・デバイス設計では、水は「主溶媒・連続相」として採用されており、溶質・溶媒が希薄に分散・溶解・混合している状況が多く、部分混和モデルの前提と一致するため。

2. 当社が独自実施した検証において、純水モデルや高混和モデルと比較して、部分混和モデルが最も実験結果との整合性が高い結果を示したため。

3. 材料設計において課題となる「溶けにくい材料を、わずかに溶かす可能性のある方向」を適切に示せるのが、本モデルであるため。

部分混和モデルが適している分野として下記が想定されます。

水性塗料・インキ:水中での樹脂・顔料の分散性・微量溶解性の設計・評価
医薬・化粧品:有効成分の溶解性・乳化・安定性の設計・評価
高吸水性ポリマー・ゲル:水が連続相として親和性の設計・評価
界面活性剤・分散剤:水と有機溶媒双方との親和性の設計・評価
相分離・共溶媒系:水と他溶媒の混合比や相挙動の設計・評価

SoluVisionでは「部分混和モデルの水(δd, δp, δh)=(15.1, 20.4, 16.5)」を標準値として採用していますが、「どの状態の水を記述したいのか」という前提条件を意識しながら溶解度パラメータを取り扱うことが求められます。

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